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和牛「オネェと合コン」にみるコント漫才の新しい形③

コント漫才とは何か

 前節では笑いの構造と漫才におけるボケとツッコミの役割について言及しました。

 ここからはコント漫才の説明を前節で紹介したしゃべくり漫才と比較しながらやっていきたいと思います。分析にあたって、サンキュータツオさんというお笑い芸人兼学者という異様な経歴を持つ方のブログを参考にさせていただきました。

 

 コント漫才は、私たちが最近最もよく見る漫才のスタイルかもしれません。王道と呼ばれるしゃべくり漫才と違い、ネタの冒頭でシチュエーション設定、役割分担があったうえでネタが展開していくコントと漫才の折衷案のようなスタイルです。

 

 説明の例としてトータルテンボスの「けんかの仲裁」というネタを取り上げます。

「けんかの仲裁に憧れている」と言うボケの大村さんに対して、ツッコミの藤田さんが「架空の人間ともめるから仲裁に入ってくれ」と反応します。そこからボケが「けんかの仲裁人」、ツッコミが「けんかをしている人」という役割を与えられて本編開始です。

 


トータルテンボス「喧嘩の仲裁」

 

 ネタを見ればわかる通り、コント漫才における笑いが起こる仕組みも基本的にはしゃべくり漫才と同じです。しかし、しゃべくり漫才が「コミュニケーションの中で予想される展開からのずれ、裏切り」をテコに笑いをうみだすことが多いのに対し、コント漫才は「与えられた設定から予想される展開からのずれ、裏切り」をテコにすることが多いのが両者の違いです。

 一方、コント漫才のネタの展開の仕方は、しゃべくり漫才のそれとは大きく異なる点があります。それはボケとツッコミが設定と現実を行き来していること。先ほど紹介したネタにおいては、二人は最初設定の通りに話を展開させ、自分の役割を全うします。そして、ボケが発生すると、ツッコミがボケのズレを指摘して、再びネタを展開させます。この「ズレの指摘とネタの再展開」の段階において二人は与えられた役割を放棄し、現実に戻っているのです。設定がそもそも必要ないしゃべくり漫才にはない「設定と現実の行き来」。これがネタの展開のさせ方を大きく変えている要因です。

 なお、観客に視点はしゃべくり漫才と変わらずツッコミ側にあります。先ほど述べた通り笑いがうまれる構造自体はしゃべくり漫才と変わらないからです。

 

 

しゃべくり漫才コント漫才のネタ展開比較を図にするとこんな感じ。

 

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コント漫才における、ボケ・ツッコミ・観客の関係性を図にするとこんな感じ。

 

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 ただし、このコント漫才には派生形が存在します。その登場は2008年のM-1グランプリサンドイッチマンが披露した「アンケート」というネタであると、サンキュータツオさんは言っています。

 

こちらが言及されているネタです。

 

www.amazon.co.jp

(1時間24分50秒あたりから)

 

 彼はおぎやはぎの「結婚詐欺師」というネタと、サンドイッチマンのネタを比較してこう述べます。

 

おぎやはぎのネタを踏まえて)

漫才は、普段の二人の役柄に、さらに話題のなかでの設定を加えることもできるので、二重構造性を備えているのだ(正確には「ボケ役」「ツッコミ役」も役柄なので、素の語り手を入れると三重構造をなすともいる)。

 しかし、サンドウィッチマンにいたって、このルールは無視された。それはたまたまかもしれない。もともとコントをやっていた二人だから成しえた方法かもしれない。サンドウィッチマンは、一度設定に入ると、二度と「修正と提案」をすべく設定を解除する方法をとらず、最後まで「設定のなかの役柄としての会話」が続く。

 

 従来のコント漫才が、話題の中での設定とボケとツッコミという2つの役割を行き来しながら展開する一方で、サンドイッチマンのコントは設定の中の役柄にボケとツッコミという役割が含まれているため、役割の行き来がなくなっている。これが、サンキュータツオさんが述べる新しいコント漫才の形です。なお、このスタイルにすることによる具体的なメリットはこの記事の範疇をこえるので、詳しくは彼のブログ及び書籍で。

 

サンドウィッチマンがM-1でしたこと | サンキュータツオ教授の優雅な生活

 

 

サンキュータツオの芸人の因数分解 GetNavi特別編集

サンキュータツオの芸人の因数分解 GetNavi特別編集

 

 

第三節まとめ

コント漫才はネタの冒頭で設定を提示し、話を展開させ、設定から予想される展開を

 裏切ることによって笑いをうみだしている。

②ボケとツッコミは基本的に与えられた役割と現実を行き来する。

③現実に戻るタイミングはボケに対するツッコミが起こったとき。

 

 第四節に続く

和牛「オネェと合コン」にみるコント漫才の新しい形④ - 足りない頭で考える